Evolve MarketsでVDP回避してそれなりに儲かった話

Evolve MarketsというFXブローカーがサービス終了するということで、Evolve MarketsのユニークなVDPを回避してそれなりに儲かったという思い出話を書いておきます。

Evolve Marketsとは

Evolve Marketsとはそれなりに昔からある海外FXブローカーの1つで、以下のような特徴がありました

  • KYC(Known Your Customer = 身分確認)が一切ないため匿名でアカウントを作成可能
  • 入出金方法は仮想通貨のみ
  • それなりに早い約定スピード
  • 完全A-Bookを謳っている

なんとも犯罪臭のするブローカーですね。めちゃくちゃマネロンに利用されそうです。

さて、KYCが無いためアカウントの量産可能で、仮想通貨で入出金できるこのブローカー、しかもそれなりに高い約定力を持っているとなれば、裁定取引で荒稼ぎできそうな気配がしますね。

そこで私は、まずバックテストで十分な裁定機会が存在することを確認し、独自の裁定取引プログラムをEvolve Marketsの値動きにチューニングし、稼働させ始めました。

損益分岐点を往復する残高

しばらくプログラムを稼動させていたのですが、どうも残高が増えません。かといって減るわけでもなく、損益分岐点で安定する動きをしています。入金した原資を起点として往復し続けるのです。仮に入金額(原資)が10,000ドルだとすると、9,999ドルになったり10,001ドルになったりを繰り返すようなイメージです。

Evolve Marketsが行っていたユニークなVDP

取引履歴を詳しく精査してみたところ、Evolve Marketsではそれまで見たことのなかったユニークなVDPが導入されていることが分かりました。

これは、アカウントの累計損益がプラスである場合のみ、約定時に固定のスリッページが上乗せされるというものです。そのため、以下のようなループが発生していたのでした。

  1. 裁定機会で利益が発生する
  2. 累計損益がプラスになり、VDPがオンになる
  3. VDPにより裁定取引が失敗し損失が発生する
  4. 累計損益がマイナスになり、VDPがオフになる
  5. 1~4を繰り返し、口座残高が原資に収束し続ける

アカウントを複数取得し検証したところ、このVDPはユーザーの取引スタイルに関わらず一律で発動していました。つまりEvolve Marketsはあらゆる顧客に対してこのVDPが自動で発動するのがデフォルト動作のブローカーというわけです。

このVDPに遭遇した私は結構な感動を覚えました。それまで様々なブローカーでVDPに遭遇してきましたが、他のVDPとは一線を画す面白いものだったからです。

このVDPを導入することによるブローカー側の利点を整理してみましょう。

人力による監視コストがかからない

通常、ブローカーがVDPを発動させる際は以下のような手順が踏まれることが殆どです。

  1. トレーダーのトレード履歴から「儲け続けそうなトレーダー」をスクリーニングする
  2. スクリーニングに引っかかったトレーダーに対してVDPを発動させ、利益を吐き出させようとする
  3. 利益を吐き出させることが難しいと判明したら、口座を凍結(BAN)する。場合によっては利益取り消しや出金拒否を行う

この様な面倒な手順を踏むことには一定の合理性があります。

まず、2つの前提を把握しておいてください。1点目は、A-Bookを謳うブローカーの99%が実際にはB-Bookであるということです。つまり、トレーダーの利益はブローカーの損失、トレーダーの損失はブローカーの利益という構図が念頭にあります。2点目は、私のような特殊ケース(裁定取引トレーダーなど)を除く大多数の普通のトレーダーはほぼ全員がFXで安定的に勝ち続けることができないということです。

これらの前提において、ブローカーが自身の利益を最大化するための方針は以下の通りになります。

  • 大多数のトレーダーはVDPを発動させずとも自然に退場するので、できるだけ長く利用させ続けなければならない
  • 勝ち続けることが予想される一部のトレーダーは放置してはならず、何らかの対策を講じなければならない
    • VDPを発動させて、それまでの利益を吐き出させる
    • VDPをも突破してくるトレーダーの場合、口座を停止する

この方針を確度高く行うためには、トレーダーの取引履歴のスクリーニング精度が重要になってきます。すなわち、「偶然一時的に利益を上げているが、放置していればそのうち退場するトレーダー」を「勝ち続けることが予想されるトレーダー」だと判断してしまう、というFalse-Positive(偽陽性)をどれだけ下げられるかが重要なのです。

この精度をある程度高めるために、ある程度の自動スクリーニング+人力による詳細な取引履歴の精査、というダブルチェックでVDP発動可否を決定しているブローカーが殆どです。

この点において、Evolve Marketsが取った戦略はとてもスマートです。アカウントの通算損益がプラスである間のみVDPを発動させる、という仕組みを導入することで、勝ち続けるトレーダーには常にVDPを発動させ、たまたま一時的に利益が出ただけのトレーダーにはごく短期間のみVDPを発動させ、最初から退場までずっと負け続けるトレーダーにはVDPを発動させずに済むからです。

ブローカーとしての規模の拡大に比例して手動の取引履歴スクリーニングは大変な作業になります。成長に胡座をかき、これを疎かにし、結果として我々裁定取引トレーダーに数億円規模の利益を抜かれて凋落するブローカーをいくつも見てきましたが、Evolve Marketsのこの方式は人力の工数を必要としないため、自動で、いくらでもスケールできます。

あらゆる種類の収益機会を奪うことができる

上述の通り、VDP発動対象となるトレーダーのスクリーニング作業において、通常は自動検知と手動スクリーニングを組み合わせています。

単純な例で言うと、「1取引あたりの平均ポジション保有時間が10秒以下のトレーダー」というのを「秒スキャトレーダー」として自動で検知し、それらに対して手動でスクリーニングを行っていく、などです。

ですが、こういった自動と手動の2段構えのスクリーニングは少し頭の良い裁定トレーダーには弱いです。彼ら(我々)はそういったスクリーニング処理にある程度のアタリをつけ、それに引っかからない様な巧妙なポジションの構築を行うのです。当然ブローカー側も随時対策を講じるのですが、延々とイタチごっこを続けなければいけません。

それに対してEvolve MarketsのVDPはトレーダーのトレードスタイルやポジション構築方法などに依存せず、あらゆるタイプの収益機会を奪いに行くことができます。トレーダーの手法ではなく、トレード結果という損益のみに着目しているからです。

大多数のトレーダー(優位性を持たないトレーダー)に対しては優良ブローカーとして振る舞うことができる

ブローカーにとってVDPとはトレーダーから収益機会を奪う大きな武器でもありますが、同時に自らの首を絞める毒薬でもあります。

見境なしにVDPを発動させてしまうとどうなるでしょうか。約定力が低く、約定スピードが遅く、スリッページも大きい、誰も使いたがらないブローカーの完成です。多数のブローカーが乱立している時代、そんなブローカーを使いたがるトレーダーなんて居ませんよね。

なので、ブローカーはできるだけVDPを発動させてはいけないのです。これは善意でも企業努力でもなく、純粋に世間での自身の評判を保ち、自己の利益を最大化するために必要なことだからです。

幸い、殆どのトレーダーはVDPなど発動させずとも、放っておけば勝手に損失を垂れ流して退場していきますので、勝ち続ける一部のトレーダーにのみVDPを発動させれば良いのです。

Evolve MarketsのVDPはこの点においても素晴らしい設計となっています。前述の通り殆どのトレーダーはそもそも通算損益がプラスになりませんので、すなわちEvolve MarketsのVDPは殆どのトレーダーに対しては発動しません。一定条件を満たせば必ずすべてのトレーダーに対して自動発動するVDPであるにも関わらず、です。また、偶然最初のトレードで上振れして利益を出してしまったトレーダーに対してもごく短時間VDPが発動することで、初心者の勝ち逃げをできるだけ防ぐという役割も果たしています。賢いですね。

Evolve Marketsのミスとその後の顛末

たった1点の設計ミス

と、ここまでEvolve MarketsのVDPをべた褒めしてきましたが、Evolve Marketsには1点だけ大きな穴がありました。そうです、KYCがないためアカウントが作り放題であるという点です。それが意味する所は少し頭の良い裁定トレーダーならその方法はすぐ思いつくでしょうから詳しくは述べません(=ここでは述べられません)。気になる方はXなどで聞いて下さい。

オフショア法人で、かつ銀行口座入出金を捨て仮想通貨入出金のみに絞るというサービス設計がEvolve Markets運営の高い匿名性を担保していましたし、おそらく独自開発のVDPと仮想通貨で自動化された入出金フローを考えると、できるだけすべてを自動化した匿名ブローカー運営を目指していたのでしょう。モラルのないハッカー(ギーク)集団という感じで個人的には非常に好感を持てます。

とはいえ手動でのKYCフローは導入するべきだったと言えるでしょう。さもないと私の様な裁定取引トレーダーがアカウントを100個作って大暴れすることになります。この点が唯一にして最大のサービス設計ミスです。

なぜか私が攻略するまで誰も同じ事は試していなかった様で、Evolve Marketsからは結構な額のお金を抜くことができました。完全自動運用型のVDPだったという点もあり、Evolve Marketsのスタッフもあまりトレーダーの動向に気を向けていなかった様で、その点もしばらく利益を出し続けられた理由になったかと思います。

その後の顛末

Evolve Marketsが私の存在に気づいた時点では大きな利益を何度も出金し続けた後でした。ほぼ手遅れです。

その時点で使っていたアカウントは原資を含め出金拒否されてしまいました。しかし、「利益はともかく原資の出金拒否は看過できない、あなた方のMetaTraderサーバーが使っているIaaS(レンタルサーバー会社みたいなもの)は特定できているので、違法行為を通報する準備がある」という平和的交渉を行った結果、無事全額出金されました。

その後すぐEvolve MarketsにKYCが導入されたことは言うまでもありません。

終わりに

以上、Evolve Marketsの思い出でした。ブログでは書けない部分は省略しましたが、結構面白い話ができなかなと思います。

こういった頭脳派ブローカーとの戦いは楽しいですね。我々裁定取引トレーダーの本懐です。ただ最近はこういったVDPを独自開発する気概のあるブローカーが全然現れてくれないですね。単に出金拒否して夜逃げするブローカーが相次いでいます。

多分今後はOSINTガチ勢や弁護士と協力し、予め実質運営者の身元情報を調査した上で夜逃げ防止できるかどうかが泡沫FXブローカー戦での鍵になるんじゃないかと思っています。

ではまた。